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木造建築と石場建て伝統構法の建築家【東風】(大阪、京都、兵庫、東京)

住み慣れた築80年の古民家を2世帯住宅に再生/兵庫県丹波市HEADLINE

概要・コンセプト

築後約80年を経ているというY様のお宅。
Y様からお問合せをいただいたのは着工から約7年前のことでした。
設計に取り掛かる際、Y様から伺った課題は、以下のようなものでした。

 ● 親世帯と子世帯が同居できる間取りにしたい
 ● 冬は寒く、暗い室内を、暖かく・明るく快適に過ごせるようにしたい
 ● 築後80年を経過した家を、これからも長く住み続けられるように手入れをしたい
   (耐震補強・通風・湿気の問題など)

お父様と息子様はお二人とも農家。生活と農が密接に結びついているご家庭です。
今回の再生工事にあたって、上記の課題は以下のように改善しました

 ○ これまでは居室として使えなかった、2階の断熱性能を高めて居住性を改善し、子世帯の生活空間とする
 ○ 大型の薪ストーブを導入し、主な生活空間の2/3を暖めることで厳しい冬を快適に過ごせるようにする
 ○ 傷んでいた構造部材は補強・入替を行い、土壁を増設し、耐震性能を向上

生業が農家なので、家の勝手口〜キッチン〜玄関と土間続きの空間にして、靴を脱がずとも行き来できるようにした間取りはとてもうまくいきました。
薪ストーブはご主人が強く希望されて導入したのですが、実際に使い始めてみると一番喜んで下さったのはご両親のようです。
薪ストーブの前に椅子を2脚置いて、ご両親がゆっくり新聞を読んで寛いでいると奥様が嬉しそうに話してくださいました。

本物件では、伝統構法の構造特性に合わせた耐震補強工事を行いました。

施工は兵庫県西脇市で古民家の再生工事を多く手がけていらっしゃる、(有)すぎもと工務店さん
このページの写真の多くは、LIGHTS PHOTOの森祥子さんが撮影されたものです。


建物の写真

築80年の石場建て伝統構法型古民家外観。今回薪ストーブを新設しました

建物全景。立ち上がっている煙突は薪ストーブのためのもので、今回の再生工事に際して新設したものです。

再生古民家の玄関前から見た外観全景 DK前の庇は古材丸太を使って大工さんが組んでくれたもの

左写真:玄関前から見た外観。1階の外壁は白漆喰、2階の外壁は杉板に植物油系の塗装を施したもの
右写真:DKの窓上部に設置した庇は、大工さんが古材の丸太で腕木と桁を組んでつくってくれました。

玄関土間に薪ストーブを設置した築80年の石場建て伝統構法型古民家

玄関土間に設置した薪ストーブ。これ1台で、建物全体の2/3くらいのエリアは快適に暖房できました。
薪ストーブの威力はクライアントのY様の想像以上だったようです。
建築主のY様ご夫妻も、本当に温かくて薪ストーブを入れて良かった、と大変喜んでいらっしゃいました。

薪ストーブと間接照明と格子戸とタイル。華やかな玄関です

茶の間から玄関を見たところ。薪ストーブ右脇の格子戸からは、土間続きでキッチンに出られるようになっています。

杉の赤身で作った食器棚の建具

ダイニングには古い食器棚に合わせる形で、新しい造りつけの食器棚を設けました。
座卓は推定樹齢400年という杉の板で大工さんが作ったもの。
高齢のご両親が座りやすいように、一部を掘りごたつ形式にしています。

農家のキッチンには土間が便利です

DK全景。作業台を挟んでキッチンと畳敷きのダイニングルームが対峙する形になっています。
作業台は、このお宅に残っていた古い水屋の下半分をつくりかえたもの。
キッチンは既存品を一旦取り外して再設置しました。
上がり口の式台にはちょうなで化粧名栗(なぐり)加工を施した杉板を使っています。

温かみのある杉板張りの洗面脱衣室 洗面化粧台の壁には2種類のタイルを組み合わせて貼りました

左写真:洗面脱衣室全景。洗面台は陶器製の洗面器に合わせて大工さんに脚をつくってもらったもの。
右写真:洗面器の上部には水返しのための小さな立上り壁を作り、2種類のタイルを組み合わせて貼っています。

築80年の石場建て伝統構法型古民家。茶の間と座敷は再生工事の際も雰囲気を全く変えないようにしました

母屋座敷から茶の間方向を見たところ。この2部屋は、意匠的には既存のままでほぼ手を加えていません。
ただし、床組みは全面的にやり替えて、耐震補強のためにも桧の120×180の足固めを四周に設置しています

襖神と引き手 廊下を照らすかわいい照明器具

襖紙や引き手、照明器具などはどれも一般的な市販品を用いていますが、歴史のある古民家の中で使われると表情が少し違って見える気がします。

2階の納戸を改修して子世帯の居室に改修しました

母屋2階は、天井が低かったため、再生工事の前は納戸としてしか使われていませんでした。
今回の工事で屋根面直下に遮熱層を設置して夏の日射熱対策を施しました。
新しく張った天井は開放的な空間になるように、屋根勾配に沿って斜めに立ち上げました。
左側の壁中央付近に通る丸太梁は、長さ10mにわたって継ぎ手が無い1本ものの松だったことが今回の工事でわかりました。

天井が低い2階の部屋は、間接照明で照らしました 寝室の照明は柔らかく暖かな雰囲気に

左写真:2階子供部屋。天井が低いので照明は天井から吊り下げずに壁面に間接照明を設ける形にしました。
右写真:2階子世帯寝室。寝室は気分をリラックスさせて心休める場所です。
     照明は穏やかな光にすべきと考え、東風ではいつも間接照明を設置することをご提案しています。

工事前は天井裏に隠れていた梁を露出させた2階の内観。石場建て伝統構法古民家の再生

2階居間と子供室。間仕切壁の丸い下地窓は、土壁を塗るための竹小舞を塗り残したもの。
今回間仕切壁を新設する際には、竹小舞を編んで土壁を塗る、昔ながらのやり方で工事をしました。
奥様が石膏ボードを見て「これを張ってしまったら、呼吸を妨げてなんだか息苦しい感じになってしまいそうだから」と仰ったことがきっかけでしたが、最終的にとても気持ちの良い空間になりました。

薪ストーブの暖気を2階に採り入れたり遮断したりするためのスノコとフタ 壁面を照らすステンドグラス入りの照明器具

左写真:直下にある薪ストーブの熱を2階に採りこむための木製スノコ。
     1階を暖めたいときには杉の床板でフタをしておき、2階を暖めたくなったら床板を外して使います。
     90p×90pと小さな開口部ですが、これだけで2階を暖めるのにも充分な熱量を採りこめます。
右写真:階段室を照らす壁付け型照明器具。
     カラフルなステンドグラスがはめ込まれた市販の照明器具ですが、壁の質感とよく合っています。